S氏の仕事

毎朝8時に起きて30分で支度、着心地のよくない服を着て、乗り物に30分揺られる。9時、ある場所に全員が集まる。ここでは各自自由に過ごしていい。ただし、人としゃべる際は敬語。飲み物は、水・お茶・コーヒーのみ。ガムやアメを除いて、食事は禁止。トイレもあまり行きすぎず、寝てはいけない。もちろん、服を着替えることもしてはいけない。ただ、それ以外なら何をしてもいい。ゲームをしてもいいし、本を読んでもいい。みんなで遊んでもいいし、個室で一人の時間を楽しんでもいい。プライバシーは保護され、好きな時間を過ごすことができる。

 

12時30分、これより一時間、昼食を取ることが許される。コンビニや外食をしてもいいし、持ち込んだものを食べてもいい。ただし、食べるものは、あまり周囲に迷惑をかけないものとする。

 

午後、午前と同じように過ごし、五時になるのを待つ。五時になると帰宅が許可される。残りたければ残ってもいいが、これ以降は好きに帰ってよい。

帰る前には、事務室へ出向き、行き帰りの交通費を受け取る。

30分乗り物に揺られ、帰路につく。服を着替え、好きな時間を過ごす。

 

S氏は週5日、以上のような生活を送っている。

以前は会社員をしていたS氏だが、ある日突然、会社の人員整理によって解雇されてしまった。行き場を失い夜の街を歩いていたところ、男に声をかけられ今の仕事をするようになったという。保険も手当も充実しており、S氏は不満なく日々を過ごしている。

謝礼は毎月数万円支払われているとのことだが、なぜかその額は前の会社の給料をちょうど2で割ったものらしい。

S氏は言う。

「給料は私の仕事に支払われていたのではなく、私の自由にも支払われていたんですね」